Kawataka’s diary

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中日新聞社説から F-35の欠陥って本当?

本日の中日新聞社説から。F-35は超音速飛行を続けるとステルス性がなくなる!と騒いでいました。が、本当に?超音速巡航が売りの機体なのに、って思って出典を読んだらどうも雰囲気が違う。社説のようなニュアンスじゃない。不思議な社説です。

(社説の引用ここから)
さて、とんでもないニュースが米国から入りました。先月に米国のオンライン軍事紙ディフェンス・ニュースが「最新鋭ステルス戦闘機F35には十三もの重大な欠陥がある」と報道したのです。その中には驚くべきことに、F35が超音速飛行が可能なのは短時間で、制限時間を超えると機体が損傷し、ステルス性の機能を喪失する可能性があると…。
ステルス戦闘機が「ステルス」でなくなるとは!、見えては欠陥です。「隠密」に意味があるのですから。(中略)「見える戦闘機」なら大幅なディスカウントをしてもらわないと。
(社説の引用ここまで)
文中、F35は不正確。正しくはF-35です。ハイフンを入れないと大戦機になっちゃいます。


 DefenceNewsの翻訳記事をネットでちらっと見た記憶があるのですが、あんまり詳しく覚えていないので一次資料を見ました。 

https://www.defensenews.com/air/2019/06/12/supersonic-speeds-could-cause-big-problems-for-the-f-35s-stealth-coating/

  まとめると、

  • 不具合が報告された機種:F-35BとF-35C、アメリカ海軍および海兵隊向け
    航空自衛隊が導入しているのはF-35A、今後導入しようとしているのはB)
  • 不具合の内容:マッハ1.3、1.4で飛行した後に、水平尾翼などのステルス塗料の変質が確認された。ただしB、C型ともに一回のフライトだけ。再現性が無い。
  • 対策:マッハ1.2を超えてアフターバーナーを使う時間に制限を加える。ステルス塗料に改良を加えた。

マッハ1.2までであればアフターバーナーに特に制限はないみたいです。F-35はマッハ1.2でアフターバーナーは使わずに巡航が可能な機体です。したがって、通常の運用であれば特に不具合はないと読み取れるんですが。
(マッハ1.2で巡行ができるというのがF-35のセールスポイントの一つです。F-15ではこれができないが、諸外国の機体ではできるものが出てきている。)
まあ、確かに、値切りのネタにはなりそうですね。

 

そもそも、マッハ1.2を超えてアフターバーナーを50秒以上使う場面というと、地対空ミサイルにロックオンされたとか、まさに緊急事態です。ステルス性の低下を懸念するよりも最大加速で生還することを優先する状況でしょう。そんな状況では、出力制限は無視してアフターバーナー全開で逃げて、機体は基地でメンテすればよい。*1

また、この記事を見る限り、米軍トップではなくて現場が難色を示しているみたい。ありがちです。運用に制限をかけるんじゃなくて完璧な機体をつくってくれ、という現場の気持ち、わかります。

後半には、現役パイロットの話として、F/A‐18ホーネットにもアフターバーナーの制限があるよ、みたいなことが書かれています。つまり、アフターバーナーの制限はF-35B/Cに限ったことでもないらしい。

DefenceNewsは肯定否定の意見をきちんと併記しています。さすがです。

一方で、中日新聞の記述は決して誤りではないが、さらっと読むと誤解を植え付けかねないように思います。こういう書き方、好きになれません。

 

 

引用ここから
Both deficiencies were first observed in late 2011 following flutter tests where the F-35B and F-35C both flew at speeds of Mach 1.3 and Mach 1.4. During a post-flight inspection in November 2011, it was discovered the F-35B sustained “bubbling [and] blistering” of the stealth coating on both the right and left sides of the horizontal tail and the tail boom.引用ここまで

2011年後半、F-35BとF-35Cがマッハ1.3とマッハ1.4で飛んだフラッターテストの後、欠陥が最初に観察された。2011年11月の飛行後の検査で、F-35Bが水平尾翼とテールブームにステルスコーティングの「泡立ち」があることが分かった。


ただし、国防総省は改良策はとらず、リスクを受け入れることとした。なぜなら、

引用ここから
As justification for the decision, Winter noted that the issue was documented while the jet was flying at the very edge of its flight envelope. He also said the phenomenon only occurred once for both the B and C models, despite numerous attempts to replicate the conditions that caused the problem.引用ここまで

飛行範囲のギリギリのところで飛行しているときの問題だから。また、この現象は、何度もトライしても、B型と問型のいずれについても一度しか発生していないから。

 

 

 

*1:最後に興味深いコメントがありました。
海軍の提督経験者のコメントとして「潜水艦や水上艦には長期間運転できる”安全な管理範囲”がある。その範囲を外れて短期間運転することはできるが、それにはリスクがある。指揮官やオペレーターはそのリスクと利益をバランスさせる必要がある」
確かにその通りです。先日のF1オーストリアグランプリで、レットブルホンダのM.フェルスタッペンが優勝しました。レース終盤に首位を奪った時、チームから「エンジン寿命を犠牲にしてパワーを出せ」という無線指示が飛んでいたそうです。利益とリスクを勘案して判断する、まさにこれです。